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究極のナンセンス絵本『たべるトンちゃん』初山滋のシュールでモダンで衝撃的な一冊

ミミ

昭和初期の絵本ってどんなものだろう?と、初山滋さんの絵本を初めて読んだときの衝撃…。本当に素晴らしい絵本というのは、輝きを失うことなく、ひっそりといつまでも残っていくものなのですね。

今でも根強いファンを持つ初山滋さんの絵本『たべるトンちゃん』は、昭和12年に出版された絵本です。

今回ご紹介するのは、よるひるプロさんが当時の『たべるトンちゃん』オリジナル本を忠実に再現した復刻版です。

出典:たべるトンちゃん(初山滋 文・絵)/よるひるプロ

絵本情報

◆出版社/よるひるプロ

◆著者/初山 滋

◆発行/2005年11月(復刻版)




『たべるトンちゃん』あらすじ

食べるのが大好きなぶたのトンちゃん。石炭でもシャボン玉でも食べてしまいます。

そんなトンちゃんの食べ物への執着っぷりをコミカルに、時にはシュールに、物語は綴らています。

そして、衝撃的な最後の1ページ。

昭和初期のナンセンス絵本、不朽の名作。




『たべるトンちゃん』みどころ

全てのページがナンセンス

この絵本の初版は昭和12年ということで、文章は旧仮名遣いです。

これだけでも読みづらさがあるのですが、「ビィー」「ニャー」「コロ」「ピッピ」などという独特な擬音(?)が文章に織り交ぜてあり、さらに縦書き、横書き、斜め書きと好き勝手に配置されて、文字を追っていると迷路に迷い込んだような気分になります。

旧仮名遣い、独特な擬音、かわいらしいイラストの3点セットが、『たべるトンちゃん』の荒唐無稽なお話のナンセンス度をアップさせています。

「この せきたんは ポリ なかなか うまい ポリ

「くしゃみ ンチ おはなを ニャー ンチ

「とんちゃんの にほいが すきだ ナンマイ

この独特なリズム、読み終わる頃にはクセになってしまします。ビィー。

ナンセンス(nonsense)意味をなさないこと。無意味であること。ばかげていること。また、そのさま。(デジタル大辞泉より)




紙面いっぱいの遊び心

大胆なレイアウト、モダンでハイセンスなイラストと配色。昭和初期、戦時色の強いであろうこの時代に、このような自由度の高い、優れたデザインの絵本があるということに驚きです。

各ページに何かしらちょっとした笑いが仕込んでありますが、時にはシュールな笑いもあり、衝撃的なラストまで気が抜けません。

飽きのこない紙面、大人にも子どもにも受け入れられるユーモアのセンス、初山滋さんの随所に散りばめられた遊び心には恐れ入ります。

装丁が豪華!

この絵本の資材仕様はこちらになります。

ケース しらおい上質紙(四六判Y目〈135〉)
表紙 しらおい上質紙(菊判Y目〈93.5〉)
見返し オペラクリームバルキー(四六判Y目〈84〉)
OKミューズカイゼル からし(四六判Y目〈120〉)
口絵 OKトップコートS(四六判T目〈90〉)
本文 オペラクリームバルキー(四六判Y目〈84〉)
スリップ しらおい上質紙(四六判T目〈55〉)
検印 コニーラップ シルバー(H判T目〈54〉)
投込み  淡クリームキンマリ(A判T目〈57.5〉)

これを見ただけではピンとこないかと思われますが、とにかく細部までこだわった復元をされて作られています。

しかも背表紙は箔押し!金!

よるひるプロさん、これで定価2,300円(税別)というのは、お値打ちすぎるのではないでしょうか…?

最後のページに検印が押されていますが、スタンプの部分は別紙になっていて、しかもトレーシングペーパーがかけられてあるという気の遣いよう。(写真はトレーシングペーパーは外してます)

否が応でも、この絵本の価値の高さを感じます。なのに2,300円(税別)!




初山滋のおちゃめな魅力

初山滋さんは、昭和初期に童画家として童謡や童話集の装丁や挿絵、また版画家としても活躍されていました。

性格はとても自由奔放だったようです。この『たべるトンちゃん』の別紙の解説で、息子である初山斗作さんが父、初山滋をこう語っていました。

…たとえば「アメ ガ フルフル カアサン ト…」という詩の絵をたのまれたとすると、まず、約束の日なんていうものは、どこふくカゼ、まわりの人たちをハラハラさせたあげく、描きあがった絵をみると…やさしいお母さんと、かわいいコドモ、ではなく、大きな蛙と小さなカエルが、蓮の葉っぱを持って踊っている……。そんな絵を、国民的・良心的な大出版社の方が、子どもにわかる、わからない、どうだこうだというと、おやじは「○○社の方、これにてお断り」と書いた紙を、いそいそと玄関の上に貼って、スズしいカオをしていましたっけ…

 

このエピソードを読むだけで、初山滋さんのおちゃめな人柄が分かりますね。

自由奔放、遊び心があって、おちゃめさん。

初山滋さんはまるでこの絵本『たべるトンちゃん』のようです。

ページをめくるたびにワクワクして、斬新な切り口やぴりりとしたジョーク、荒唐無稽でもどこか憎めないトンちゃん。

初山滋さんの魅力そのものの『たべるトンちゃん』は、まさしく昭和の名作絵本です。

 

作者プロフィール

◆初山 滋(はつやま しげる)1897年〜1973年

◆東京生まれ

◆童画家、絵本作家、版画家

◆絵雑誌、童話雑誌、児童文学書などの童画を手がける。他に画集「初山滋作品集」、絵本『たべるトンちゃん』『もず』など。




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