ミミ
今でも根強いファンを持つ初山滋さんの絵本『たべるトンちゃん』は、昭和12年に出版された絵本です。
今回ご紹介するのは、よるひるプロさんが当時の『たべるトンちゃん』オリジナル本を忠実に再現した復刻版です。
出典:たべるトンちゃん(初山滋 文・絵)/よるひるプロ
『たべるトンちゃん』あらすじ
食べるのが大好きなぶたのトンちゃん。石炭でもシャボン玉でも食べてしまいます。
そんなトンちゃんの食べ物への執着っぷりをコミカルに、時にはシュールに、物語は綴らています。
そして、衝撃的な最後の1ページ。
昭和初期のナンセンス絵本、不朽の名作。
『たべるトンちゃん』みどころ
全てのページがナンセンス
この絵本の初版は昭和12年ということで、文章は旧仮名遣いです。
これだけでも読みづらさがあるのですが、「ビィー」「ニャー」「コロ」「ピッピ」などという独特な擬音(?)が文章に織り交ぜてあり、さらに縦書き、横書き、斜め書きと好き勝手に配置されて、文字を追っていると迷路に迷い込んだような気分になります。
旧仮名遣い、独特な擬音、かわいらしいイラストの3点セットが、『たべるトンちゃん』の荒唐無稽なお話のナンセンス度をアップさせています。
「この せきたんは ポリ なかなか うまい ポリ」
「くしゃみ ンチ おはなを ニャー ンチ」
「とんちゃんの にほいが すきだ ナンマイ」
この独特なリズム、読み終わる頃にはクセになってしまします。ビィー。
ナンセンス(nonsense)意味をなさないこと。無意味であること。ばかげていること。また、そのさま。(デジタル大辞泉より)
紙面いっぱいの遊び心
大胆なレイアウト、モダンでハイセンスなイラストと配色。昭和初期、戦時色の強いであろうこの時代に、このような自由度の高い、優れたデザインの絵本があるということに驚きです。
各ページに何かしらちょっとした笑いが仕込んでありますが、時にはシュールな笑いもあり、衝撃的なラストまで気が抜けません。
飽きのこない紙面、大人にも子どもにも受け入れられるユーモアのセンス、初山滋さんの随所に散りばめられた遊び心には恐れ入ります。
装丁が豪華!
この絵本の資材仕様はこちらになります。
ケース | しらおい上質紙(四六判Y目〈135〉) |
表紙 | しらおい上質紙(菊判Y目〈93.5〉) |
見返し | オペラクリームバルキー(四六判Y目〈84〉) |
帯 | OKミューズカイゼル からし(四六判Y目〈120〉) |
口絵 | OKトップコートS(四六判T目〈90〉) |
本文 | オペラクリームバルキー(四六判Y目〈84〉) |
スリップ | しらおい上質紙(四六判T目〈55〉) |
検印 | コニーラップ シルバー(H判T目〈54〉) |
投込み | 淡クリームキンマリ(A判T目〈57.5〉) |
これを見ただけではピンとこないかと思われますが、とにかく細部までこだわった復元をされて作られています。
しかも背表紙は箔押し!金!
よるひるプロさん、これで定価2,300円(税別)というのは、お値打ちすぎるのではないでしょうか…?
最後のページに検印が押されていますが、スタンプの部分は別紙になっていて、しかもトレーシングペーパーがかけられてあるという気の遣いよう。(写真はトレーシングペーパーは外してます)
否が応でも、この絵本の価値の高さを感じます。なのに2,300円(税別)!
初山滋のおちゃめな魅力
初山滋さんは、昭和初期に童画家として童謡や童話集の装丁や挿絵、また版画家としても活躍されていました。
性格はとても自由奔放だったようです。この『たべるトンちゃん』の別紙の解説で、息子である初山斗作さんが父、初山滋をこう語っていました。
…たとえば「アメ ガ フルフル カアサン ト…」という詩の絵をたのまれたとすると、まず、約束の日なんていうものは、どこふくカゼ、まわりの人たちをハラハラさせたあげく、描きあがった絵をみると…やさしいお母さんと、かわいいコドモ、ではなく、大きな蛙と小さなカエルが、蓮の葉っぱを持って踊っている……。そんな絵を、国民的・良心的な大出版社の方が、子どもにわかる、わからない、どうだこうだというと、おやじは「○○社の方、これにてお断り」と書いた紙を、いそいそと玄関の上に貼って、スズしいカオをしていましたっけ…
このエピソードを読むだけで、初山滋さんのおちゃめな人柄が分かりますね。
自由奔放、遊び心があって、おちゃめさん。
初山滋さんはまるでこの絵本『たべるトンちゃん』のようです。
ページをめくるたびにワクワクして、斬新な切り口やぴりりとしたジョーク、荒唐無稽でもどこか憎めないトンちゃん。
初山滋さんの魅力そのものの『たべるトンちゃん』は、まさしく昭和の名作絵本です。
◆初山 滋(はつやま しげる)1897年〜1973年
◆東京生まれ
◆童画家、絵本作家、版画家
◆絵雑誌、童話雑誌、児童文学書などの童画を手がける。他に画集「初山滋作品集」、絵本『たべるトンちゃん』『もず』など。